本日もまぁまぁの天気ではあるけれども、実は‥‥いや実話なんだけれども‥‥‥
吾輩の遊び仲間であるこの家の娘が、昨年の4月に大阪から帰って来た時の事を、本意ではないが書くことにする。
心待ちにしていた吾輩は聞き覚えのある足音に、喜び勇んで玄関口まで出迎えに行ったのはよいが、ドアを開けると、そこにはなんと同伴者が居るではないか。
それも娘が大阪のアパートで、日々の寂しさをまぎらわせるために飼っていたという銭ガメ。
名前は『お千代』と言うらしい。体長は猶に20Bはある。こともあろうに首を伸ばして吾輩を威嚇するのである。
なんと言う礼儀知らず。新参者は新参者らしく、先輩である吾輩に「初めましてミロさん、どうぞ宜しくお願い致します。」ぐらいの事を言うのがペット社会のルールなのだが……。
まぁ吾輩は亀語はわからんし、そいつも猫語を解するほど頭が良さそうには見えんから、初対面の非礼は、吾輩の寛大な心をもって許す事にした。

(左から/インパチェンス/ピーマン)
さぁー、「お千代」をどこのスペースで飼う事にするかと言う事になった。
ベランダが候補に上がると、吾輩はすかさず大声で「ミイヤー、ミイヤー(嫌、嫌)」と必死に反対抗議をしたが、完全に無視されてしまった。
吾輩の執筆活動の主舞台であるベランダは、悲しくも「お千代」に乗っ取られる事になってしまったのだ。
旦那は、空いていたプラスチックの米櫃の中に玉砂利と水を引き、そこに「お千代」を住まわせた。
これで我が世の春ときめこんで、ペット生活を謳歌していた吾輩にとっては、飼い主の愛情配分が半減しまいかという心配事が一つ増えた事になる。
そんな中で、吾輩の努力もあり「お千代」との間に、これといったトラブルも無く平穏な日々が過ぎて行ったある日の事。
それは「お千代」が我が家の敷き居を跨いだ日から一週間ほど経った日の事である。娘が「餌をあげようとしたら『お千代』が居ない!」と言うのである。
さあ、我が家はパニック状態。ベランダの鉢植えの下を覗き込んだり、デッキ板をひっくり返したりの大騒ぎ。どこをどう探しても「お千代」は見当たらない。
探し疲れて出した結論が「そのうち出て来るだろう。」であった。
「もしや排水溝をつたって隣家へ行ったのでは……?」と言う娘は、エレベータホールに[WANTED 銭ガメ]の“イラスト入りポスター”まで貼る始末。
奥様は、近隣の会う人ごとに「うちの銭ガメ知りません?」と聞いて回るが、これといった情報は無く2日、3日と過ぎていった。

(左から/キキョウ/茄子/フクギ)
一週間ほど経ったある日、玄関のチャイムが鳴り、娘がドアを開けるとそこに立っていたのは中学生ぐらいの男の子。
「はり紙、見ました。うちのベランダの下に亀がいた。」と言うのである。
その子の家は直下の4階(そこのベランダの下は、3階の屋上)、我が家は8階……。えぇー!、と言う事は「お千代」は米櫃から這い出し、ベランダの手すり格子の間から4階まで真っ逆さまに落ちた事になる。
いくら亀族特有の固い甲羅で身を包んでいる「お千代」でも、かなりのダメージを受けたに相違無い。
早速、旦那、奥様と、まだショックの癒えない娘の3人は、夜のとばりのおりた4階のオープンスペースから3階の屋上へ…。
一縷の望みを抱きつつベランダ下を覗き込むと、そこにはそれらしい影。
両手でそっと抱きかかえると、それはほとんどミイラ化した哀れな「お千代」の亡骸であった。
思えば、遥か大阪から慣れない空の旅をして辿り着いた異郷の地沖縄で、天寿をまっとうすれば、万年は生きられたはずの亀としては、余りにも短い生涯を終えたのである。
吾輩は「お千代」の亡骸を前に、思わず手を‥‥、いや前足を合わさずにはおれなかった……合掌。

(左から/ベゴニア/イタリアンパセリ)
吾輩が思うに、「お千代」の運命は名前を“オチヨ”と名付けられた時、すでに決まっていたのではなかろうか。
“オチヨ”すなわち“落ちよ”と解することも可能である……う〜ン、いかんいかん。どうも我々猫族は物事をマイナー思考するD・N・A を持っているらしい。
ペットとしてのライバルであった「お千代」の亡骸を、奥様の実家の庭先に埋葬し、小さな墓標も建て終えた数日後、飼い主達の愛情を我が前足に取り戻した吾輩は、いつものように執筆の場であるベランダで、散策しながら構想を練っていた。
しかし何となく身体がだるい。そういえば、ここ2〜3日前から食欲も無い。ウンチもいつもなら、ラグビーボールのミニチュアみたいな綺麗な楕円形を数個、スムーズに排泄するのだが、本日はちょっと違う。
便意は無性にあるのだが、いくら活きんでもなかなか出てこない。
やっとの思いで出て来たのは、ユルユルのネチョネチョ…。それも額に脂汗が滲むほど苦しいのだ。もっとも飼い主達は吾輩の脂汗を見ても解らんらしいが……。

(キントラノオ)
デブ猫を誇っていた吾輩は、見る見るうちに痩せ衰え、ユルユルウンチを処かまわず排泄するようになってしまった。見かねた娘が奥様に訴える。そして、あの恐怖の決定が下された!
……「病院だァ〜〜!」。
必死に抵抗する吾輩を、強引に段ボールに押し込む奥様と娘。
車に乗せられ着いた所が、獣専門の病院である。注射を打たれ、診察台の上で意識朦朧となった吾輩は、まるで《まな板の鯉》ならぬ《診察台の猫》になっていた。
噛み付き引っ掻き技を得意とする吾輩も、この時ばかりは医者のなすがまま。身体のあちらこちらを弄くりまわされた後に、医者が言った。
……「腎不全です。」
……タタリじゃ、これは「お千代」の祟りに違い無い。吾輩が「落ちよ」などと言ったばかりに、あの世の「お千代」が怒ったのだ、そうだそうなのだ。許してくれ「お千代さん」、本意ではないのだ、我が猫族の D・N・A がそう言わせたのだ。これからは「お千代さん」の命日には、必ず前足を合わせるから……命日はいつだっけ?

(白蝶草)
地獄のような獣専門病院から、やっとの思いで帰宅した吾輩は、その後、飼い主達から至れり尽せりの看護を受ける事になる。
薬入り猫御飯はまずかったが、無理して喰った。
二度とあの医者の顔を見たく無い為である。
時間はかかったが、吾輩の身体は次第に回復へ向かい、排泄はラグビーボールが復活し、体型もデブ猫の容姿に戻りつつあった。
お蔭様で今は、吾輩のライフワークである『ベランダ日記』の執筆に専念することが出来る様になったのである。
久々にペンを持ったもんで、彷佛と沸きい出る執筆意欲を抑えられず、長々と書いてしまった。そろそろ昼寝の時間なので本日は、この辺でペンを置く事にする。(‥本意では無かったのだが‥‥)

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